平野を持つ石2(段石)

【秀 稜】写真10 

[左右30cm]

 

平野を持つ石の、もう一つの代表格である[段石]について述べます。

段石で、見て戴けそうな石は、2個しか手元にありません。

 

世に[土坡石]と[段石]が混用されている傾向を見掛けます。

しかし、[段石]と言うからには、二つ以上の平面が段になっているべきです。

段に見えるためには、(二つの平面の場合で考えて)上と下の平面が平行でありたいものでしょうし、諸々のバランスが良いものでなくてはなりません。

従って、[具合のいい段石]は少ないもののようです。

 

この【秀稜】は、瀬田川の石。

もう35年前になるでしょうか。

石に魅せられて夢中な頃のある日、これを、名古屋にあった小川さんと言う業者さんのお宅で見ました。

余りの美しさに唖然。

売って欲しいと言いました。

その人は業者なのに『自採なので売らない』と言います。

余程気に入っているのでしょう。

(註・自分で拾った石を[自採]といい、買った石より思い入れが強く、大切にします)

『売る気になったら私に…』と願いしてその日は帰りました。その後、折りがあれば懇願していましたが、暫く訪れる機会がなく、10年ほど経ってにその店に行ったらもうこの石はありません!?

私との約束を忘れて、ある人に売ってしまったのでした。

しかし、嘆く私をかわいそうに思ったらしいお優しい彼は、持ち主に交渉して下さって、私の手元に来たのです。

 

幸せ。 感謝です。

 

普通の梨地肌と蟹真黒の中間の大きさの凹みでしょうか、質は上等。勿論、底部も含め天然です。

 

この石と次の石。つまり写真10【秀稜】と写真11【瑞平】のように平野が段になったものを、前にも書きましたように[段石]と言っています。

 

この手の格好の石は、山形石に比べて沢山ありそうなのに、実際には不思議に少ないのです。

 

単に石が2段に割れて川で擦れれば、こんな格好になる筈なのに、現実はそんな調子のものでないらしく、おもしろい現象です。

 

何度も書きますが、段石は土坡石ではないので、上と下の両面が平行であるのは、段石の第一条件です。しかし、それが美しく見える為に、更に一つの無視できないものがあります。

 

それは、例えば写真10【秀稜】で見て、上の平野が下に降りる様子で、より遠くが右に出ている感じがあります。

これが大切です。

 

より遠くが右に出ている感じは、見る人に奥行きのある平野を感じさせ、つまり上の大地に囲まれた平野を感じさせ、やすらぎと落ち着きを与えます。

 

更にこの様子は、石の下の[平野]を取り巻き、石の中心に視点が行き易い原因を作っています。

(この取り巻く様子を[巻き込み]と表現しておられた記事を見たことがあります)

それ故に、より遠くが右に(石の中心の方向に)出ている感じは段石にとって大切です。

 

余談ですが、この稜線の巧まざる素晴らしさにしばし惹き込まれて時間を過ごし、かくして、この石を【秀稜】と銘ずる事になりました。

 

そして、この【秀稜】は所有する石の中で最高位グループ石の一つとなりました。

 

【瑞 平】写真11 

[左右29cm]

 

これも、瀬田川の産です。

瀬田川の川に沿っている左岸の道に、庭に石を沢山並べている家があります。

 

庭が駐車場になっていて、車と塀の間にこの石は置かれていました。

 

表面は、長年土の中にあったのでしょう、猛烈な汚れで、何の質かわかりません。

持ってみると、重いし軽く叩くと金属音がします。

質は良い!

値段を聞いてみましたら5000円。

 

買って帰り、必死に擦りましたが、擦る布が簡単に破れてしまいなんともなりません。

困り果ててガラを掛けて貰いました。

 

虎石の出現です。大成功!

 

座りは、台無くともこのままで安定しますし、まあ及第の段石でしょうか。

 

この【瑞平】も【秀稜】と同じく、下の平原を上の台地の隆起が取り巻いています。

 

 

段石に於けるこの取り巻きは、恐らく観る人に〔包囲感、つまり台地に囲まれた平野に居る感覚〕をもたらしています。

そして、前項の[土坡石]にても言える事ですが、結果として石に奥行きを感じさせ、石の中央部に視線が安定することをも含めて、素晴らしくひろがりのある安定感を石に感じさせているのです。

 

 

 

さて、ここで【集・中心的の例】で触れました、コンピュータによる“変形実験”に行きます。