深   遠

【深 遠】写真16 

[左右32cm]

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これは、私が持っている[穴が開いている石]の代表選手です。

[穴が開いている石]の代表選手であるのみでなく、所有できた石達の中でも出色の代表的な石です。

 

自然とは何と思いも掛けないかたちを作るものでしょうか。

驚き入ってしまいます。

 

大垣市に住んでおられた愛好の人[川崎さん]から譲り受けたこの石は、土中から出たものであるとの話です。

 

陸堀り(おかぼり)業者と言い、大昔に川が流れていた場所の田圃を、持ち主と契約して何年か借り、そこを掘って建築材料に使うらしい石を採取する業者がいます。

 

大垣市に住む愛好の人[川崎さん]によれば、その作業者からこの石を入手したとの話です。

 

この穴のあたりは泥が一杯で、除去するのが大変だったそうです。

 

この石の底部は切断ですが、上部に化工の痕跡はありません。

 

天井の橋(?)も天井から降りてくる左側の柱も実に薄く、このあたりを軽く叩くと金属音を発します。

 

硬質です。

 

硬質にしても、どうして、こんなに薄い天井の橋、柱が天然の地核変動などに耐えて残ったのでしょう。

更に、この天井の橋の上の面は川擦れしていて滑らかです。

川擦れしている事は、川の流れの中にいたことを意味しています。長年の期間に、台風も洪水もあったでしょう。

よくぞ、これらの水流で転がる石に衝突して壊れないでいてくれたと感謝です。

 

本当に見れば見るほど、考えれば考えるほど不思議です。

 

山水石では何故か好んで、山形、土坡形、段石などと分類をします。

 

しかし、この【深遠】は、それら分類の何にも属しません。

 

そうした分類に属さないにも拘わらず、この石は大自然の何かを連想させています。

 

抽象的であると言うより何か具象的ですらあります。

 

この格好は、人間技の及ぶものではありません。

全く、想像を超越した不可解なかたちの石です。

 

既におわかりのように、表紙の石です。

 

またこの石は、後で出てくる【瑞稜】と同じく、京都で催される[大観展]で委員会賞を貰ったことがありました。

 

やはり京都の建仁寺で開催される九十九会で、幸せなことに何年か続けて、奥の座敷の床の間飾りをさせて戴けました。

その床の間は左右二間もあり広大です。

広大であることは、石が確固たる「存在感」を持っていることが肝要です。

確固たる「存在感」を得るには、先ず大きさが必要であろうと思いました。

そこで、最初は、左右58センチある大形の【大八洲】を床の間飾りさせて戴きました。

 

予想に違わず大成功でした。

 

しかし、どうしてもこの【深遠】を飾ってみたくなり、ある年にエイッとばかり左右二間もある床の間に飾らせて戴きました。

【深遠】の左右は32センチで、【大八洲】の半分くらいです。

 

あの広い床の間で惨めではないかと、事前に心配していましたが、卓に載せ、床の間に置いてみましたら、何と、周囲を圧倒しているではありませんか!

 

石の「存在感」は大きさで感じるものではありません。

 

 

この【深遠】は非凡です。

 

 

普通、家では箱に入れていますが、こうして改めて見ますと、自分のものながら、物凄いと思わざるを得ません。

 

こんな凄い石の所有者になれて私は幸せ者です。

 

感謝!

余談です

 

一般に[底部切断石]は「存在感」に欠ける場合があると私は思っています。

別の日に瀬田川石の【遼遠】と揖斐川石【泰山】とを、この床の間に飾ってみたとき、不思議な体験をしました。

【遼遠】の左右の長さは57センチ。【泰山】の左右の長さは49センチです。

それは、左右の長さに於いて有利であった【遼遠】が【泰山】より貧弱に見えたのです。

確かに【泰山】は堂々としていて、多くの人々の視線を浴びていました。

間近で見る主峰が迫力満点である【遼遠】ではありますが、それにしても何か弱いような、線が細いような感じがしました。

私は【遼遠】は〔底部切断によって、欠点を全く無くすることが出来たので、優等生になってしまい魅力を失った〕のではないかと考えています。

同じ底部切断の石でも、【泰山】は混然とした山岳感を見附に持っていて、それらがどっしりと大地に屹立して様子で底部が切断されています。その結果として優等生になりきれず、観る人の心に訴えるものになったのであろうと考えています。

何だか、問題が複雑になってきました。

何は兎も角、先ずは、自分が良いと思っている石を展覧会場に飾って、虚心坦懐に眺めて、魅力を感じられているか、感じられないかを確かめてみるのが大切かと思いますが…。

 

 

 

 

 

 

 

さて、山水石を一休みして、他を見てみましょう。